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2016-05-24 15:33:00

ブタ、学名:Sus scrofa domesticus、英名:pig)とは、哺乳綱ウシ目(偶蹄目)イノシシ科の動物で、イノシシSus scrofa)を家畜化したものである。

学名は「Sus scrofa domesticus仮名転写:スース・スクローファ・ドメスティクス)」。

生物学的特徴 [編集]

野生のイノシシと同様土中の虫や植物球根を掘り返して食べるため、他の家畜と違って硬い鼻先と強大な背筋を備えており、木製の柵では横木を鼻先で押し上げて壊してしまう。オスのも強い背筋を生かせるよう上向きに生えており、人間のような丈の高い動物を敵と認識すると、突進して鼻先を股ぐらに突っ込み、頭部を持ち上げながら強くひねる。野生時代の名残ともいえるこの行動を「しゃくり」といい、まともにしゃくられると大人でも数メートル飛ばされ、腿の内側の静脈を切って大出血することがある。日本で小規模養豚が多かった時代には、年に数人はこれによる死者が出ていた。

肥満者への蔑称として使われることが多いが、豚の体の大半は筋肉であって、脂肪ではない。一般的に肥満させて育てる食用ブタでも体脂肪率は14パーセント、多くても18パーセント程度にとどまる。ガツガツと食事を取る人物を指して「ブタのように食べる」、散らかり汚い部屋を「豚小屋」などと形容することがあるが、ブタの生命力が強いため荒れた飼育環境でも飼育できることや、容貌から来る偏見である。ブタは知能が高く(教え込めば芸も覚え、自分の名前も認知する)清潔を好む生物であり、ガツガツ食事をしたり、自分の居場所を汚くすることもない。排泄をする場所は餌場や寝床から離れた決まった一ヶ所に決める習性がある。ブタの知能はイヌと同等か、それ以上とする研究者もいる。犬は高い忠実性を持つが、事実上の知能ではブタの方が上であることが認識されている。類人猿、イルカ、ゾウ、カササギヨウムに加えてブタも鏡の存在を認知できる「鏡映認知」が確認された数少ない動物である(詳細はのリンク先を参照[1]

ブタは類人猿以上に体重や皮膚の状態、内臓の大きさなどが人間に近い動物である。そのため現在、異種間移植の臓器提供用動物として、研究が続けられている。

ブタの鳴き声は、日本語では「ブー」、「ブヒッ」などと表現されるが、英語では「oink(オインク)」と表記され、中国語での漢字では「嗷(アオ áo)」などが使われる。

家畜としてのブタ [編集]

家畜としてブタを飼育することを養豚といい、仕事としての養豚を養豚業、また養豚業に従事する人々のことを養豚業者という。ウシウマヒツジヤギといった家畜は原種が絶滅、またはかなり減少してしまっているが、ブタは、原種であるイノシシが絶滅せず生息数も多いまま現存しているという点が特徴的である。免疫力が強く、抵抗性だけでなく環境への適応性にも富んでいるため飼育は容易。豚肉脂肪を食用とするために世界中で飼育されている。使えないのは「鳴き声だけ」と言われるほど、人間の利用箇所に富んだ「経済動物」である。

高級食材で知られるトリュフを掘り起こすのに、かつてはメスブタが使われていた。トリュフにはオスブタの持つフェロモンと同じ成分が含まれており、トリュフの匂いを嗅ぎつけ興奮したメスブタが掘り返すのである。メスブタがトリュフを食べてしまうことも多いため、最近ではイヌを用いるようになってきた。アメリカの砂漠地帯では除けのためにブタを飼っている家もある。

オセアニアではブタの牙を切らずに飼っている例が多い。牙が伸び、湾曲して円形になったものは、アクセサリーや貨幣として用いられることもある。

ブタを数える際の単位(数量詞)は、またはと、かなりあいまいである。同じ新聞で、ブタに関することで発行された記事においても、頭と表現した例と、匹と表現した例がある。

飼育量 [編集]

順位 国名 2005年飼育数(百万頭)[2]
1 中華人民共和国の旗 中国 488.8
2 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 60.4
3 ブラジルの旗 ブラジル 33.2
4 ベトナムの旗 ベトナム 27.0
5 ドイツの旗 ドイツ 26.9
6 スペインの旗 スペイン 25.3
7 ポーランドの旗 ポーランド 18.0
8 フランスの旗 フランス 15.0
9 カナダの旗 カナダ 14.7
10 メキシコの旗 メキシコ 14.6
  世界計 960.8

家畜としてのブタの一生 [編集]

子取り用雌豚 [編集]

繁殖候補として選ばれた子取り用雌豚(繁殖用雌豚)は管理しやすいようにストール(閉じ込め枠)飼育される。(日本の農場では83.1パーセントでストールが使われている。そのうち常時ストール収容が32.7パーセント)ストールの面積は1頭あたり1平方メートル前後である[3]。個体識別繁殖の管理のため、子取り用雌豚は耳刻や入墨が入れられる。雌豚は、生後八ヶ月で初めて交配される。豚は自然交配のほうが受胎率が高いことから、人工授精率が牛に比べて低い。牛の人工授精率99パーセントに対し、豚は40パーセント程度[4]。 妊娠した雌豚は、約114日の妊娠期間を経て、1回につき10数頭の子豚を産む。母豚による子豚の圧死を防ぐため、母豚は、分娩から離乳まで、行動範囲を制限する分娩柵を両側に取り付けられた分娩豚房に移される。分娩後約1ヶ月で次の交配が行われ、2年間で6 - 7回ほど分娩する。繁殖用として役目を終えた雌豚(平均3歳)は、「飼い直し」をしても肉質の向上が見られないため、ソーセージなどの加工品に利用される。

新生子豚 [編集]

外科的処置

  • 歯切り
    • 新生子豚には8本の鋭い歯が生えており、母豚の乳頭の取り合いをする際に、他の子豚や母豚の乳房を傷つける可能性がある。また、母豚が乳頭を噛まれ授乳を拒否したり、急に立ち上がったりすることにより、子豚のけがや圧死の原因となる可能性もある。歯切りは、このような事故等を防止するための手段の一つと考えられている[5]。日本の農家の88.1パーセントが歯切りを実施しており、そのうち8割はほぼ根元から切断される。歯切りは生後7日以内に無麻酔で行われることが一般的である。またその道具として日本の農家の9割以上がニッパーを使用している[3]
  • 断尾
    • 77.1パーセントの農家で断尾が実施されている[3]。豚舎での過密飼い・換気の不備・梅雨時期の多湿や夏場の高温等、豚がストレスを受けた場合に、他の豚の尾をかじる行動や、耳や腹を噛む等の行動が見られることがある。特に、尾かじりの行動が起きた場合には、その行動は群内にすぐに広まる。尾かじりを受けた豚は、ストレスにより飼料の摂取量や増体量が低下したり、けががひどい場合には死亡したりすることがある[5]。断尾も一般的に生後7日以内に無麻酔で実施される。
  • 雄豚の去勢
    • ほぼ100パーセントの雄豚に無麻酔で実施される[3]。これは食肉とされたときの雄独特の雄臭を防ぐためである。雄臭のため、去勢していない豚は食肉格付評価が下がる。去勢は生後8日以上後に実施されることが多い。

新生子豚は、21日 - 24日の授乳期を経て1ヶ月程度で離乳させる。その後、主に配合飼料を給餌し、豚舎内で群飼肥育される。豚の寿命は10年から15年ほどだが、食用豚は6 - 7ヶ月で105 - 110キロ・グラム程度に仕上げられ、屠畜される。

種雄豚 [編集]

繁殖用の種雄豚は、8年前後、種付けに用いられた後に廃用され、雄臭が強いため、主に皮革や肥料などとして利用される。

アニマルウェルフェア(動物福祉)の考え方に対応した諸外国の豚ガイドライン・法規制

  • EU
    • 歯切りは子豚が他の子豚や母豚を傷つけた場合のみ生後7日以内に実施すること。断尾・去勢を生後7日以降に行う場合は麻酔下で実施すること。また、雌豚のストール飼育は2013年に禁止される。
  • アメリカ
    • 歯切りは生後24時間以内に歯の先端部分のみ実施すること。断尾は子豚のストレスにならない方法で出生直後に実施すること。また、雌豚ストール飼育はフロリダ州で2008年に禁止、カリフォルニア州では2013年に禁止される。
  • カナダ
    • 断尾は生後24時間以内に尾の後部から3分の1のみ切断すること。

ブタの飼育史 [編集]

中東 [編集]

イノシシの家畜化は8,000年以上前からユーラシア大陸の東西で行われ、各地で独立に家畜のブタが誕生したと考えられている。今はイスラム圏となった古代オリエント古代エジプトでも豚を食用としていた。古代エジプトではブタを飼う民は賎民とされていたことが、エジプトを脱出した古代イスラエル人と、その宗教を受け継いだユダヤ人ユダヤ教カシュルート、およびユダヤ教の影響を受けて誕生したイスラム教においては、豚肉肉食食のタブーとなった原因とする説がある。実用上の理由としては、過去に生の豚肉を食べて食中毒になる人が多かったからという説がある。宗教上の理由は、ブタは人間がイノシシとネズミを合わせて作り出した[要出典]不浄な動物とされるからである。補給の都合上、イスラエル軍やイスラム国家の軍でも糧食として用いられる例があるが、豚肉のみの専門の食器を使い、食後は全て破棄している。

ヨーロッパ [編集]

古代ローマ人も豚を食べなかったわけではないが、ブタの飼育が発達したのは北方森林地帯のゲルマン人ケルト人の食文化においてだった。日照時間が短く寒冷で、土壌のやせたヨーロッパでは、穀物の生産性が低いため、秋になるとナラオーク)の森にブタを放してドングリを食べさせて太らせ、それを屠畜して食塩硝石で処理して主要な保存食にしたのである。後にアメリカ大陸からジャガイモトウモロコシがもたらされると、土地あたりの収穫量が多いそれらが飼料として利用されることになる。ドイツスペインイタリアなどのハムベーコンソーセージはこういった伝統を受け継ぐ。

アジア [編集]

東アジアでは中国新石器時代からブタは家畜化されていた。中国南部を発祥地とするオーストロネシア語族南太平洋にまでブタを連れて行く。満州人の先祖である挹婁人、勿吉人、靺鞨人は寒冷な満州の森林地帯に住んでいるので、ブタを盛んに飼育し、極寒時にはブタの脂肪を体に塗って寒さを防いでいた。

豚は現代中国台湾でもよく食べられ、中華料理で重要な食材となっている。中国語で単に「肉」といえば豚肉を指すほどで、飼育量も世界最大である。これに対して、中国で牛肉は農耕用に使われた廃牛や水牛を利用する程度で、食用としては硬すぎたり筋張ったりし、それほど好まれなかった。

韓国では、縁起のよい動物とされている。漢字の「」を韓国語読みした「トン(ローマ字転写:don)」が、「お金」を意味する韓国語と綴りが同じためである。ブタ型の貯金箱に人気があり、ブタの夢を見るとお金がたまるといわれ、宝くじを買ったりする。韓国語で「豚」は「テジ(돼지)」といい、イノシシは「メッテジ(멧돼지)」という。

ベトナム料理でも婚礼に子豚の丸焼きを用意したり、焼豚を載せたライスヌードルであるブン・ティット・ヌオン(Bún thịt nướng)が日常的に食べられたりするなど、中国文化を受けてブタは食材として重要である。

現代中国語では、「ブタ」は「(=繁体字)/(=簡体字)」と表記され、チュー(zhū)と呼ぶ。古語では「」(シー shǐ)が使われた。西遊記に登場する猪八戒はブタに天蓬元帥の魂が宿った神仙で、「猪(豬)」は「朱」(中国ではよくある姓)と音が通じるためにこの名にされた。しかし明代皇帝の姓が「朱」であったため、これを憚ってもとの意の通り「猪(豬)」を用い、猪八戒となった。

韓国やベトナムを含め、日本を除く東アジア漢字文化圏では、原則として亥年は「豚年」である。

オセアニア [編集]

南太平洋諸島の文化において、ブタは唯一の大型食用家畜として重要視された。もともとこれらの島々にはブタは生息していなかったが、紀元前1000年ごろから始まったオーストロネシア語族の拡散にともなってブタも海を渡り、メラネシアポリネシアの多くの島々で重要な家畜となった。一方で、オーストラリアニュージーランドイースター島ツアモツ諸島などのようにブタが持ち込まれなかった島々も存在する。また、ミクロネシアの一部諸島のように、いったん持ち込まれたブタが何らかの理由によって絶滅したところも存在する[6]。ブタの飼育された島々においてブタは儀式の際などに屠られる特別な食料となり、またバヌアツなどにおいてはブタのが富の象徴とされた。この際、ブタの牙はできるだけ長く伸びているものほど珍重され、高い価値を持った。長く伸び円弧を描いたブタの牙は、富の象徴としてバヌアツの国旗にも描かれている。

日本 [編集]

縄文時代にはシカ・イノシシ主体の狩猟が行われているが、イノシシ骨では飼養段階の家畜利用を示す家畜化現象の骨が出土していることが指摘され、日本列島における家畜化の可能性も考えられているが、イノシシ飼養はいずれも限定的なもので疑問視する見解も見られる。弥生時代に入ると、大陸から移入されたブタの利用が行われていたと考えられている。大分県下郡桑苗遺跡において1989年に行われた発掘調査によってイノシシ類頭蓋骨3点が確認されたことを1991年西本豊弘が報告し、直良信夫も弥生時代におけるブタ利用を報告している。これを機に出土イノシシ類骨の再検討が行われ、現在では九州地方から関東地方にかけて弥生ブタの存在が確認され、弥生文化との関わりが論じられている。

縄文時代にはシカ・イノシシ骨の出土割合は同等であったが弥生時代にはイノシシ骨の出土量が急増し、続く古墳時代の遺跡からもブタの骨は出土している。『日本書紀』、『万葉集』(萬葉集)、『古事記』に猪飼、猪甘、猪養などの言葉が見られるが、これらの「猪」はブタの意味であり[7]、ブタが飼われていたことがわかる。奈良時代仏教が国教化したことによって、ブタの飼育も途絶えてしまった。イノシシが採れる山間部では猪肉がぼたん鍋と称してわずかに食べられることもあった。